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【イギリスTV】BBC版「 A Christmas Carol 」の感想レビュー【一部ネタばれあり】

クリスマス番組表@イギリスの記事でもちらっと触れましたがBBC版クリスマスキャロル3夜を見終えましたので、感想をご紹介したいと思います。

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BBC版クリスマスキャロル やっぱりビジュアル怖すぎ

 

 

 

日本ではそんなに一般的ではない(と思われる)クリスマスキャロル。

ホリエモン主演でミュージカルをやって話題になりましたが、そもそもあんまり知らないよ。って方が多いと思います。

 

クリスマスキャロルとは

1843年にイギリスの文豪チャールズ・ディケンズによって発表され、守銭奴でエゴイスト。金儲け第一主義で唯一の従業員であるボブを薄給でいびり、玄関先でクリスマスの寄付を募る子供達を追い返してしまう "サイコおじいちゃん" である主人公スクルージがクリスマスイブの夜に故人で昔のビジネスパートナーであったマーレーの亡霊と遭遇し、生前の罪に苦しむ姿を目撃します。

 

この出来事をきっかけに過去・現在・未来を司る3人のスピリットに出会うことで自分の人生を見つめなおし、自分のこれまでの振る舞いを悔い改め改心する。

 

どんなにお金や地位があろうと、人とのつながり、思いやりを持たない人間は最後に悲惨な目にあってしまう。と一つの教訓を残してくれる物語です。

 

作品が発表された1840年代の当時は産業革命の影響で、貧富の差が激しくイギリス社会全体が様々な問題を抱えていました。人々の心もすさみ、イギリスの人々はクリスマスの装飾を飾ることも、家族で集まってご馳走を食べることもしなくなっていった時代だったそうです。

 ディケンズはそんな病めるイギリスをスクルージに見立て、金銭欲だけに走るのではなく、人間らしい思いやりを思い出そうと本作を通じて人々に呼びかけ、その思いがイギリスの人々に伝わり、今日まで語り継がれる名著となりました。

 この「クリスマスキャロル」が出版されなければ今日のクリスマス文化はもっと違った形で伝わっていたかもしれません。

 

こちらイギリスでは12月ごろからテレビで映像作品が繰り返し放送され、私も別バージョンの映像作品を3つほど見ました。(白黒版、カラー版、ディズニーアニメ版…)

 

ただこれら3作品のクリスマスキャロルは正直、子供向けの印象が強く、スクルージが心から悔い改め改心した。というより自分に待ち受けている運命を恐れ、その運命を回避するために心を入れ替え「悪人」から「善人」になったようにしか思えませんでした。

 

「善人」になってからのスクルージは前半の姿と打って変わってかなり明るくひょうきんな性格になっており、一晩で180°人間が変わってしまったために隣人たちから狂人になったと思われるレベル。見ている視聴者にも違和感を覚えさせる豹変ぶりです。

 

いわゆる昔話の教訓ものとしては、それでいいのかも知れません。しかし、大衆娯楽が極まった現在の世の中では物語のメッセージを伝えるのにムリを感じずにはいられない演出でした。実際スクルージの豹変ぶりに少し引きます。

 

 BBC版クリスマスキャロルの違い

今回12月23日から3夜連続で放映されたBBC版の「A Christmas Carol 」はそんな今までの映像作品とは異なる演出をしています。プロデューサーにトム・ハーディーとリドリー・スコットで波乱がないはずがありません。

ダークで怖いクリスマスキャロル

一人ぼっちでさみしいスクルージの対比として、華やかで暖かなクリスマスの場面が描かれることの多いこれまでの「クリスマスキャロル」ですが、本作はほとんどそういった暖かみを感じる場面がありません。本来なら「孤独」と対になる「温かい家族・仲間」の描写がほとんどなく、描写があってもどこか厳しさを感じさせる演出になっています。画面は凍える冬、流血、悲鳴がほとんどを支配しており、メインイメージのとおりダークで暗い印象になっています。

 ガーディアン紙の寸評に『本作を見る前は子供を早く寝かしつけなさい!』的なことが書いてありましたが、お子さま向けではないことは確かでしょう。映画館上映作品なら年齢指定確実な完全に大人向けの演出になってます。

 

 原作とは異なる結末

原作ではスピリットの試練を通じてスクルージは「悪人」から「善人」に生まれ変わり、クリスマスの夜を境に180°異なる人生を歩んでいくことが示唆されます。

 一方、本作のスクルージはスピリットの試練を通じて目に見える大きな変化がないように感じられました。

 

変化があるとすれば、失っていた人間性を取り戻し、自分のそれまでの行いを自覚し、悔い、罪を背負い償う覚悟を持った点でしょう。

 

本作でのスクルージは甥の招待を最後まで受けませんでしたし、自分の生業であるスクルージ&マーレー商会を手放す決断をします。

 

これからのスクルージに明るく希望のある余生が残っているとは思えませんが、狂ったような明るいスクルージも本作では登場しません。

 

ただ淡々と自分が感じるまま、なすべきことを行っていくスクルージの姿は、それまでに見たどのスクルージに比べ、違和感なく見ることができました。

 

またクリスマスイブの夜に現れ、スクルージに忠告をした亡霊のマーレーも大幅な出番が与えられ、スクルージの行いによって生前の罪を償い、安らかな眠りについた描写があり、運命が変わったことを知らせてくれます。

 あと引く後味の悪さ

物語の中でスクルージ&マーレー商会の書記であるボブの奥さん、クラチット夫人がリトルティムをめぐり自らスクルージと関わって行く場面があります。

 

ぶっちゃけお金の無心をしに行くわけです。

 

スクルージはクラチット夫人に対して罠を仕掛けます。結果、この出来事が彼女の自尊心を深く傷つけ、夫であるボブとの夫婦仲を危うくさせてしまう一つのきっかけにもなるのです。

が、その対価として破格の条件で決して少なくないお金を手にします。

 

夫人は、この事実を隠すため嘘をつき、さらに嘘を重ね病んでしまいます。夫であるボブが一連の出来事を通じて聖人のように描写されていることも相まって、この夫人の振る舞いに正直…う~ん。同情できないなぁ。自爆してるだけでは…

 

また終盤では夫人が強気にスクルージを責め立て続けます。

対価にしっかり大金もらって目的果たしてるにもかかわらず。

 

この一連のやり取りが個人的に納得できなかった。確かにスクルージの仕掛けた罠は許されることではありません。そもそも露骨に性を出したこの演出が必要だったのか?

まとめ

直前に3パターンの異なるクリスマスキャロルを見たこともあり、今回のBBC版クリスマスキャロルは舞台は1840年代のまま、現代向けに新解釈された大人のクリスマスキャロルに仕上がっていると感じました。

今まで多くのクリスマスキャロルを見てきたという方も、昔の題材で避けてきたという初見の方でも最後まで楽しむことができると思います。

ただ個人的にクラチット夫人の振る舞いが後味の悪さとして残ってしまい、見終わった後の余韻を後味の悪いものにしてしまったのが残念でした。

 

BBC版の「A Christmas Carol 」はBBC iplayerで視聴することができますので、ぜひご自身の目で楽しんでみてはいかがでしょうか。

 

kane